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OHSAS 誕生と世界的浸透の背景、日本の未来と課題とは ISO14001/OHSAS18001主任審査員、労働安全・衛生コンサルタント有限会社環境ワークス代表取締役 黒崎由行氏

ILO(国際労働機関)によれば、世界では年間およそ2億5000万人もの労働者が労働災害に遭い、そのうちおよそ110万人が命を落としているといわれています。つまり、毎日3,000人もの働き手が、家を出たきり帰らぬ人となっているのです。

このような状況下で1999年にISO9001、ISO14001に続く第3のマネジメントシステムとして誕生したのが「労働安全衛生マネジメントシステム(OHSAS18001)」です。これはリスクアセスメントをベースとするPDCAサイクルでリスク低減を図り、業務上の災害・疾病を予防し、快適な職場環境を作るためのものです。

この「労働環境」に関するマネジメントシステム準拠が全世界共通の課題とされているのは、日に3,000もの方を労災で失っている状況を見れば当然と言えるでしょう。わが国日本では年間の被災者がおよそ12万人(休業4日以上が対象)、うち死亡者が1,628人(平成15年度データ)という状況ですが、近年は、タイヤ、RDF、製鉄、化学などの工場で大規模な火災爆発事故が続き、加えてこれまで「安全」の信頼を得ていた鉄道や航空の分野にまでトラブルが頻発しています。こうした労働環境の変化の原因としては、安全衛生管理のノウハウを蓄積したベテランがリストラや定年で職場から離れ、一方で事業場における安全衛生管理のノウハウが十分に継承されずに管理水準が低下していることなどが指摘されています。

これまで、日本では人の知識と経験による「家族的」な労働安全衛生管理が主流でしたが、世代の交代でシステムの変化が否応なく進んでいる状況です。この変化への対応策として期待されているのが、知識や経験を規格化し、属人的なシステムから脱却する労働安全衛生マネジメントシステムです。しかし、日本の労働安全衛生マネジメントシステムの現状はいまだ文書や形式が先行し、リスクの低減に寄与していない中途半端なものであるという感が否めません。

現在、 OHSAS18001は労働安全衛生マネジメントシステムで唯一、国際的な審査規格とされていますが、ISOとしての国際規格化に至っていません。そのためか、日本国内で認証を受けている企業は数百にとどまり、認証を受けている企業ですらその管理レベルは欧米と比べて著しく低いものです。

日本と欧米の管理レベルの差は、訴訟リスクの差によるものだと考えられます。米国企業が訴訟対策に使う費用は年間約30兆円(日本の国家予算は約70兆円)とも言われるほど、欧米は訴訟社会として成熟しており、ひとたび従業員から訴訟を受けるとその負担は数億円にも上る可能性があります。従って、企業は万一訴訟された場合に備えて厳格なマネジメントが要求されるのです。そして日本でも、欧米の波を受けて今後訴訟リスクは厳しくなっていくことが予想されています。

労働安全衛生マネジメントは、欧米ではすでにCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)の重要な要素として考えられ、OHSAS18001認証取得の要求も高まっています。日本でもこの動きは着実に高まりつつあり、企業の本来あるべき姿を捉えた、社会責任を担えるマネジメントシステムの導入と実践が期待されているのです。

環境ワークス 代表取締役 黒崎由行氏

環境ワークス 代表取締役 黒崎由行氏

有限会社環境ワークス 代表取締役
ESHライブラリ 主宰

ISO14001主任審査員(CEAR)
OHSAS18001主任審査員(審査機関)

労働安全コンサルタント(厚生労働省登録)
労働衛生コンサルタント(厚生労働省登録)
環境カウンセラー(環境省登録)

米国安全衛生庁30時間トレーナーコース修了
公害防止管理者(大気1、水質1、ダイオキシン)
熱エネルギー管理士
温室効果ガス検証人研修終了(経済産業省)